神石高原1月号
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「「黒い雨」を読んで」油木高校3年 小こ里ざと 成なる美み被爆七十年という節目に,この本を読むのはいい機会だと思った。これは七十年前,広島で何があったのか改めて知るのにふさわしい本だ。この『黒い雨』は被爆者,重松静馬さんの『重松日記』と被爆軍医,岩竹博さんの『岩竹手記』を基に書かれた作品だ。閉間重松とその妻シゲ子,姪の矢須子を中心として彼らの周りで起きたこと,原爆投下後の人々の様子が描かれている。彼らが住んでいるのは原爆投下から数年が経った,広島県東部の神石郡小畠村。私が現在住んでいる所の近くだ。作中には何度も,普段よく聞く地名が登場する。そこは広島市からはかなり離れている場所ではあるが,ここで重松たちは原爆の影響に翻弄された生活を送る。重松は矢須子にいい縁談をまとめてやろうと,被爆していないことを証明するために彼女の日記を書き写すことにした。しかし書き写している内に,矢須子は原爆症に蝕まれていった。それでも重松は作業を続け,姪の病気が治ることを祈った場面でこの『黒い雨』は幕を閉じる。この本には,原爆投下後の広島が驚くほど淡々と,客観的に描かれているという特徴がある。起承転結がある物語調ではなく,アメリカを激しく非難する文章や,泣き叫ぶような台詞があるわけでもなく,事実だけが記されている。著者の意見や思いなどもあるわけではない。だからこそ,私たちがこの本を読んでどう感じたかは重要であると思う。それが最も純粋な原爆に対する思いなのだ。でも痛々しい描写などは読んでいて辛い部分もある。最初から最後まで悲しいことは,覚悟して読まなければならなかった。今でこそ私たちは,八月六日に落とされたのが原子爆弾で,その強烈な放射線は人体に恐ろしい影響を与えることを知っている。でも当時そこにいた人は,そのことを全く知らない。得体の知れない爆撃によって,一瞬で何もかも変わってしまったのを見て,どんな気持ちだったのだろう。目の前で親や子供,友人を失った人もいただろうし,そういった人たちがどうなったかさえわからない人だってたくさんいただろう。どれだけ悲しかったか,苦しかったか,痛かったか,想像もできない。戦争は悲しみしか残さないことを思い知らされた。印象に残っているのは,ラストの重松の台詞「今,もし,向うの山に虹が出たら奇蹟が起こる。白い虹ではなくて五彩の虹が出たら矢須子の病気が治るんだ」という部分。私が気になったのは,「白い虹」という言葉だ。この本の中で白い虹は,不吉なものとして描かれている。そして,それと対になるような言葉がこの本にはある。黒い雨だ。私は,言葉そのものの意味ではなく色の対比から考え,白い虹は太陽を貫いて見えたとあることから天や神の怒りのようなものが表現されていて,黒い雨は,人間が作り出した化学兵器で同じ人間を何十万と殺したことの愚かさを,それぞれ表現していると思った。だから,重松はそういうものではなくて,希望を感じる「五彩の虹」が出ることを願い,もう治ることは無いとわかっている矢須子の病気が治る奇蹟を祈ったのだ。淡々と綴られる原爆投下後の様子で,矢須子のことを思うとき重松は最も感情を出していた。広島の悲惨な状況の中で,そこだけは美しいところであったと思う。自分より,何より,姪の矢須子を一番心配していた重松の愛情を私は尊敬する。私も自分より,大切な誰かが苦しんでいる方が自分にとって辛いという気持ちがわかるからだ。戦争という悲劇の中で重松は,人間の根本の美しさを表していると思った。私は,核兵器の廃絶と平和な世界の実現を目指す高校生一万人署名活動に参加したことがある。呼びかけると,本当にたくさんの方が署名して下さる。毎回感動するくらいだ。しかしその反面,世界では今も,いくつもの国が核兵器を所持している。核を保有することで,国際的な発言権と抑止力を得ることができる,というのは世界では常識らしい。実際,核を持っている国と持っていない国では,力に圧倒的な差がある。私はまだまだ勉強不足でわからないことだらけだが,日本に核兵器は持ってほしいとは思わない。至極個人的な思いや感情から,そう願っていることはわかっている。しかし世界で唯一原爆を落とされた国が核兵器を持っていては,これまで原爆が原因で亡くなった方たちに申し訳が立たないだろう。なんと言って八月六日を迎えるつもりか。いつまでも,原爆が広島・長崎に落とされたことは異常なことであってほしい。この本の描写に日本でない国の人が,私の国に落とされた時と同じだ,と思うようなことは将来絶対にあってはならない。再び核が殺戮に使われることが,あり得る世界になってほしくはない。私はそう願い続ける。*『黒い雨』(井伏鱒二・著/新潮社・刊)【小学生の部】最優秀賞:芦田 樺音(三和小4年)優秀賞:石田 春奈(豊松小3年) 〃 :出内 里佳(油木小5年) 〃 :高石 若葉(油木小6年)【中学生の部】最優秀賞:赤木 花凜(神石高原中2年)優秀賞:森上 夏帆(三和中1年) 〃 :重松佐矢子(三和中3年)【高校生の部】最優秀賞:萩原 麻琴(油木高1年)優秀賞:藤井 幸輔(油木高1年)【黒い雨の部】最優秀賞:小里 成美(油木高3年)優秀賞:若林 里咲(神石高原中3年)(敬称略)なお,平成27年度神石高原町読書感想文コンクールの作品について,審査委員長岩崎文人(ふくやま文学館館長)さんに講評していただきました。また,全体の優秀作品集・総評を町ホームページに掲載しています。最優秀賞【黒い雨の部】神石高原町読書感想文コンクール入賞者決定町では読書への関心を高め,積極的・自主的に本を読むきっかけづくりとして,8月を「神石高原町読書月間」と定め,読書感想文を募集し465点の応募をいただきました。その作品の中から,各部門の最優秀賞・優秀賞を選び,12月26日,さんわ総合センターで表彰式を行いました。表彰者には賞状と記念品が贈られました。入賞者は次の皆さんです。「教養のまち-神石高原町」4広報 神石高原 No.135

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