私学新庄54号
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今日、情報化やグローバル化の急速な進展、アジアや中南米諸国の経済発展などを背景として、国際競争は年々厳しさを増し、我が国の産業の在り方も大きな転換期を迎えています。日本は一九五〇年代後半から八十年代にかけて、工業を主力として目覚ましい経済成長を果たし、アメリカを追い上げる世界第二位の経済大国となりました。日本の工業技術者は、欧米で考案された技術を学び、持ち前の勤勉さと器用さを活かして、技術の改良、改善を重ね、世界の人々に認められる高品質の工業製品を提供して、国力を大きく伸ばすことに成功したのです。この時、アメリカは大きな危機感を持ち、日本をターゲットに様々な経済政策を押し進めるとともに、教育の分野では、イリノイ工科大学が先進的に研究してきた「デザイン思考」を進化発展させていきました。「デザイン思考」とは、人間中心のアプローチで課題を発見し、チーム構成員の多様性を重視しながら、技術革新や新ビジネスプラン創出を行う思考様式です。イノベーションを起こすための人材育成の手法ともいえます。二〇〇〇年代半ばには、スタンフォード大学が、デザイン思考を教えるための専門プログラムであるd-schoolを創設しました。ここでデザイン思考を学んだ学生が、アメリカ企業の中核となって活躍しています。デザイン思考で生み出された製品やサービスの代表例が、アップルのiPadやiPhoneであり、P&Gやスターバックスコーヒーなども、デザイン思考によってイノベーションを起こし、成功を収めた企業として知られています。アメリカは、このようにして人材育成に力を入れ、技術革新を進めるとともに、市場に新しいニーズを作り出し、日本との差別化を図ることに成功しました。現在、アメリカでは、創造性の開発は、大学等の高等教育からでは遅いとし、初等中等教育において、創造性を育む取り組みがすでに常識化しています。また、この成功に目を付けたヨーロッパの先進国や中国などは、いち早くデザイン思考を自国の企業や教育に取り入れ、産業を支える人材育成に乗り出しました。日本では、近年ようやく一部の大学で、デザイン思考を学ぶことができ始めた段階で、小・中・高校ではデザイン思考などの創造力を養うための教育は、ほとんど取り組まれていないのが現状です。先進諸国が豊かな発想力で次々と生み出す新製品や新ビジネスプランと発展途上国が安価な労働力で生産する工業製品に挟まれ、日本の産業は、益々の苦戦を強いられています。今、わが国は、戦後最大の教育改革のうねりの中にあり、高校・大学教育改革、大学入試改革が進められつつあります。ようやく日本でも国を挙げて、知識偏重の教育を脱し、これからの社会が求める資質や能力に焦点を当てた人材育成が始まりました。本校においても、新しい時代に対応した教育を実践するための改革を、着々と進めております。その中でも、早急に進めなくてはならないのは、優れた創造力を備えた人材を育成するための教育プログラムの開発です。人材育成は、都市部が有利とは限りません。むしろ、地元の皆さんが、強い関心と情熱をもって育ててきてくださった新庄学園こそ、地域の教育資源をフルに活用した地域密着型の探究学習を進める絶好の条件を持っています。大学や企業、研究機関との連携はもとより、地元の行政や住民の皆さん、そして保護者や同窓生の方々と協働して、あらゆる教科・科目、部活動等において、創造力をはじめとする二十一世紀型のスキルを育てる教育を推進したいと思います。新庄学園は、百十年の伝統と誇りを受け継ぎ、これからも豊かな人間性と感性を備え、高い志を持った生徒を育てて参ります。教科学力の伸張を図るだけでなく、それを応用し活用する力、すなわち新しい価値を創造する力を育み、地元や日本はもとより、人類の持続可能な発展に寄与する人材の育成を目指します。皆様におかれましては、引き続き新庄学園教育へのご理解を賜り、この学園から未来を変えることのできる人材を世に送り出すために、お力をお貸しいただきますようお願い申し上げます。校 長 荒 木   猛創造力の育成を目指して3

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